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活動報告

「今、何が日本の大学に必要か」東大小宮山総長対談 (出典 月刊自由民主)

「課題先進国」日本の競争力と大学の役割

これからの日本は、世界のモデルを導入して山積する課題に立ち向かう時代から、自らがモデルとなって世界をリードしていく「課題先進国」の道を歩むしかない。それには世界の「知の宝庫」ともなり得る我が国大学のレベル向上が不可欠だ。元文部科学大臣で現在、自由民主党国家戦略本部「大学ランキング向上プロジェクトチーム」座長である河村建夫広報本部長と学界の最高峰の地位にある小宮山宏東京大学総長が、「今、何が日本の大学に必要か」をテーマに、新たな「知の創造」の戦略などを語り合う。

「大学ランキング」と国力の関係

「課題先進国」日本の競争力と大学の役割 河村建夫・広報本部長 日本は、欧米先進国に追い付け追い越せのいわゆるキャッチアップから世界の先頭に立たなければいけません。それには日本の国を本格的に見直す必要がある。その大きな課題に向けて自由民主党国家戦略本部は総裁を本部長として、いろいろなプロジェクトチームを作りました。その一つとして私が座長を務める「大学ランキング向上プロジェクトチーム」があります。これまで三回ほど議論をしておりますが、日本の大学のランキングがきわめて低く、教育立国・日本として、こんなことでいいのだろうかと思うことがあります。

小宮山宏・東京大学総長 ランキングが高かったら即いい大学であるとは一概に言えませんが、かといってランキングを無視するわけにもいきません。

河村 そうです。「たかがランキング、されどランキング」です。世界各国の大学関係者は、いかに自国の大学の、また自分たちの大学のランキングを上げることに、かなりの関心を払っています。この問題は人づくりにも通じ、国力にもつながる問題だという認識を持っております。
一方、今の日本の大学の学生は、アメリカ志向で、留学生の半分がアメリカに行く。最近は、東大、京大に一応入学しておいて即そのまま留学する人たちも出てきました。日本の大学は、大教室で受け身の授業になっていて、なかなか自己発信しない、座学中心になっているとの指摘もあります。アメリカのリベラルアーツカレッジの名門、スワーモア大学だと少人数で先生との直接的な知的触れ合いができて思考力が高まるという。アメリカでは自然科学、政治、経済など総合的な知を学べる、いわゆるリベラルアーツ思考ができるということで、日本の頭脳が流失しつつあるという指摘もあります。日本は資源小国ですから、人材立国でしか生きる道はありません。地理的なハンディもあります。留学生を呼ぼうとすれば日本の大学の魅力を高めなければいけない。世界各国は既に人材獲得に向けて投資を始めています。最近は、中国が国家戦略としして教育事業に財政投資をやっている。このまま放っておけば日本は世界から置いてきぼりを食らってしまいます。どうすれば日本の大学の競争力を高めることができるか、ぜひ先生のご高見をたまわりたい。

小宮山 先生のおっしゃった「たかがランキング、されどランキング」というのは、世界中の学長の間でもそういう捉えられ方がされております。例えば、三週間前ですか(五月四日)、北京大学で建校百十周年記念式典がございまして、そこに呼ばれておりましたら、トロント大学の学長が、私に「東大を今年も抜けなくて非常に残念だった。われわれは三位で東大が二位だ」というんですね。実はそれが何のランキングなのか、私は分からなかった。帰ってきたら、この間言い足りなかったといってトロント大学の学長が送ってくれたものは、ペーパー(論文)の数です。一位がハーバード大学、二位が東大、三位が確かにトロント大学です。
一つ申し上げたいのは、いいランキングは日本で報道されません。もう一つ、パリ・テクノロジー(Par is Tec h)でも世界の大学ランキング調査をやっているのですが、やはり東大は二位なんです。だけど、そういうのは決して日本では報道されない。それも、一つのある指標で評価しています。今、いちばん報道されるのが、たぶん(英誌の)「タイムズ」じゃないかと思います。今年「タイムズ」(大学ランキング二〇〇七年)の二十位以内に入っている大学で、大英帝国の文化圏でないのは東大だけです。
他は例えば香港しかでてこない。

「課題先進国」日本の競争力と大学の役割 河村 アングロサクソン系の大学が中心に入るのですか?

小宮山 (米誌の)「ニューズウィーク」で、みごとにアメリカとイギリスの大学が主に上位にランキングインしています。カナダが一つだけ入って、香港とか何かは抜けますが、イギリスも二大学しか入らなくて、アメリカばっかりになります。東大だけは十六位か何かに入っています。日本の東大ですら十六、七位と言われるのですが、トムソン(コーポレーション=米国の学術情報会社)では、(一九九七年\二〇〇七年)に書いた論文がどれだけ引用されているかを発表している。これですと東大は十二位なんです。従って、どういう指標でランキングをつけているかというのが重要なのです。そういう意味で「たかがランキング」なのですが、「されどランキング」で、どこの国も気にはしています。この前の教育再生会議のときに、日本の大学のレベルをどうやって考えたらいいかということで、結局、ランキングを使いました。ただ、上海交通(大学高等教育研究所)とかトムソン(・サイエンティフィック)のサイティション(・インデックス)とか、五種類のランキングを平均したのです。一つひとつの大学を使わずに、日本の大学が何%出てくるか。そうすると五%なんですね。ベスト百というと五大学ぐらい。

河村 各々のランキングでも、日本の大学は五%ですか?

小宮山 五つぐらいのランキングの平均値をみると二百というと十ぐらい出てくるといった感じです。一方でアメリカが四五%出てくるんです。他に日本より高いのはイギリスだけです。ドイツ、フランスは日本よりも下にきております。そういうことを考えると、「されどランキング」のほうで言うと、日本が国際的に特に低いということではない。ただ、高等教育の中で熾烈な国際競争が始まっていて、先生のおっしゃった、(日本の)大学に入った学生がハーバード大学に抜けるといった事例も、まだ極めて少ないですが出始めています。個人的なことですが、私の息子も大学院は向こうに行っております。出て行くのは構わないと思います。同じだけ向こうから来るかどうか、相互交換になるかどうかということ。向こうを引き付けるだけの魅力を僕らは創っていかなくちゃいけない。そこらへんが「たかがランキング、されどランキング」とい うことなのではないかと……。

河村 そうですね。

小宮山 日本のGDPが世界の一〇%ぐらいだから、それと同じぐらいに、百大学というと十大学ぐらい、二百というと二、三十は入ってくる、そういう状況を少なくともつくらないといけないかと思っております。

世界をリードする「教育モデル」を作る

河村 今日、日本の学生が海外の大学に惹かれるのは、日本の大学に魅力がなく、資格を取りたくてもそれができない、そういう問題もあるのだろうと思います。私の娘もこの七月からアメリカの大学院へ留学します。日本の私学の心理学科を出たのですが、キャリア・カウンセラーになろうと思ったら、やはりアメリカの大学でなければダメらしいのです。日本の大学が、世界の若者をもっと多く受け入れたいと思えば魅力ある大学に変えていかなければなりません。

小宮山 われわれ「個性化・多様化」という表現を使っていますが、そこらへんがたぶん鍵なんじゃないですかね。ランキングは、いろんな指標があるとはいうものの、総合大学では理科系を持つ大学しか入っていません。例えば東京芸大は、世界一流の大学ですが、ランキングには絶対に入ってこない。

河村 どうしても理工学系にかたより、人文社会関係はなかなかないわけでしょう。

小宮山 そうです。だから東京外国語大学も入ってこないし、一橋大学も入ってこないです。

河村 工学部とか理学部とか医学部を持っていると、入ってくるだろうけど。

小宮山 ええ。だから私が言っているのは、ランキングに入ってくる大学が一〇%ぐらい日本に出てきて、そのほかに国際的に競争のできる、特徴のある大学が、もっと出てくるようにしなくてはなりません。

河村 朝日新聞社から、「大学ランキング」が出ているので見たら、日本の大学のランクしか付けていない。進学用のランキングですね。これからの大学の役割は、日本の国際力強化のために大事ですから、ぜひ、これからの課題に挑戦をしてもらいたい。
先生のご著書『課題先進国』にいろいろ述べられておりますが、特に、キャッチアップ時代後の日本は、世界の先頭に立つためのあらゆる課題に挑戦していかねばなりません。
日本が持続的な発展を遂げていくために、大学の役割は大きいと思います。これからの大学の役割や責任を、どうお考えですか。

「課題先進国」日本の競争力と大学の役割 小宮山 河村先生は初めに「日本はキャッチアップ後の世界をどうリードするか」という言い方をされましたが、すでに日本が世界をリードする時代に入ったと思います。もう少し具体的に言うと、それは自分たちの抱えている課題を自分たちで解決するということだと思います。どうしても日本はキャッチアップの時代に癖がついてモデルを外に探す。

河村 そうですよ。

小宮山 ケンブリッジもオックスフォードも、アメリカのリベラルアーツカレッジも様々な問題を抱えているんです。例えば日本の初等教育、二十年前だったら世界の誰に聞いても世界一の初等教育だと言われたはずです。それで日本はここまできたわけです。これからは、あの国を真似しろみたいな議論はナンセンス、自分たちで、どこをどう変えていくのか、それもガラガラポンと変えるのではなくて、いいところは残しながら、新しい仕組みを考える必要があると思います。例えば社会人で六十歳を超えて定年になったような方が、初等・中等教育の教壇に立てるような仕組みを作ったりしていかねばなりません。ITとか生命科学といった新しいことを子供たちはメディアを通して見ますから、いろいろ質問しますよね。そういうことにどう的確に対応していくのか、ということが恐らく課題になってくると思います。今、日本の抱えている課題を自分たちで、新しいモデルを作って解決していく。そのことが、世界をリードするということだし、そのプロセスを通して人も育ち、日本のモデルが、世界の教育モデルとなっていく。
もちろん教育の問題だけではなく、高齢化社会、環境、エネルギーなどの日本が抱えている諸課題は、世界の先進国共通の課題ですので、自分たちで解決していこうという熱意が大切と思います。

河村 先生は著書の中で教育院構想でしたか、いまの教育は教育現場だけしか見ませんから、これからはもっと、グローバルな視野で日本の教育を考えなくてはいけない。それには、専門的にそういう情報を集められる機関を持つべきではないかとおっしゃっていますね。

小宮山 そのことは教育再生会議で提案させていただきました。名前は「教育院」から「大学発教育支援コンソーシアム」に変わりましたが、「教育コンソーシアム」の略称で呼ぼうと思っています。

河村 あれはそれを指しているのですね。

小宮山 ええ。結局、大学がもう少し初等・中等教育にコミットしようという、基本的な考えに基づくものです。
おかげさまで東京地区は東大と早稲田・お茶の水女子大がネットワークを組んでいます。名古屋は、名古屋大学の平野学長(眞一・総長)が「俺がひとこと言えば全部ついてくる」というものですから、名古屋大学にやっていただく。京都は教育委員会と京都大学というネットワーク型で新しい試みをしていく。例えば、小学校の理科離れ、若者の理科離れと、さまざまなことが言われておりますけれども、いろんなことができる。「がんばれ! 図工の時間」という企画は結構、ここ一、二年、活発になっているのです。図工は工学やサイエンスのベースになり得るものです。
東大として提供しようと思っているのは、生命科学に関してITベースで教材とか、先生が勉強するようなツールとか、そういったものを、ほんとうに面白い新しいツールとして開発し、実験的に小・中・高等学校で使っていただいて、その中のいいものを文部科学省を通じて導入していくという仕組みを作って、やっていくのも一つのやり方だと思います。

知をつなぐインターフェースの役割を担う

河村 戦後の追いつけ追い越せ時代の大学は、ある意味でエリート機関でもあったわけですが、今や大学全入時代を迎えている。こういう状況の中で、各大学も生き残りを懸けています。われわれも、教育基本法の大改正をやるときに、今までの教育基本法は義務教育に重点が置かれていたのですが、大学教育の位置づけを明確にしました。大学に関する条を新たに設け、第七条に「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」と規定しました。

小宮山 そうですね。

河村 日本は、世界で最も少子・高齢化が進み、資源も少ない。地震大国でもあり、対岸には、世界一の人口を持つ中国が、さらにその向こうにはインドがある。アジアの視点をもって、日本の大学は、新たな知見をどんどん創って行き、「知の殿堂」としての役割をどう果していくか。大学がイノベーションを先導する時代になっている、その先頭に立っているのが東京大学だと思います。先生、総長になられて、こうしたことに対して東京大学はどういうコンセプトで改革に取り組まれているのですか。

小宮山 基本的なコンセプトは、先生もおっしゃった、知が大学から生まれておりますけれども、それが高度に発達して細分化、専門化というか、非常に細かい分野に分かれてしまって、社会の要求するものとの乖離が生じている。いま社会は高齢化社会の医療システムとか、次世代のエネルギーシステムとか、大きなものを要求しております。そういう社会の要求と、新しく生み出されて細分化された知との間の距離が非常に広がっているのが、世界の知の現況だと思うんです。その間をつなぐ、インターフェース、仕組みをさまざまにつくっていこうというのが、われわれの基本的なコンセプトなんです。
最近ですと、政策ビジョン研究センターとか、知の構造化センター、サステイナビリティ(持続可能性)学連携研究機構とか、社会のニーズと直接関係するようなものを新たにつくって最先端の知を結び付ける。あるいは新しくつくった仕組みと社会とを連携して、そこで新しいものが生み出されていく。例えば(附属)病院が典型的ですね。今、高齢化社会の医療といっても、三十兆円でどうやって高齢化社会の医療をやろうかという話ばかりしているからダメなのです。新しい技術が生まれれば、医療は百兆円に広がってもいいので、その七十兆円をどういうところからどうやって、誰でもが払えるようなシステムをつくっていくかということが問題です。そのためには技術革新がベースになるわけです。技術革新のタネというのは山ほどあるわけです。そういうのを一体どこでつくるかというと、私は大学病院が核となるべきだと思っております。東京大学では大学病院を舞台にして、そこへ医学、薬学、工学は言うに及ばず経済学、法律学、最近だったら生命倫理などと関係して哲学、文学も必要ですよね、そのような知が大学に集まり、社会からは、どういう医療が、いま最も必要なのか\、患者さんがやって来て、それを訴え、その病院が知の中心地点になる。そういう構造ですね。
同じようなことを、いま千葉県柏市でもやっているんです。高齢化、持続化ということが今、新しい人類の目的になってきたわけで、そういうための社会とは一体どういう社会なのか。ここを決めれば日本は世界に負けないと思うんです。要するに日本が得意な“ものづくり”で世界をリードするわけです。どういう生活を望んでいるのか、どういうインフラが欲しいのか。
それさえ定めれば日本は強いと思います。
その実験を、都市工学の研究者が、柏の葉キャンパス駅前に常駐して、市民と相談しながら、ウェブサイトや携帯電話で乗車時刻・場所を指定する「オンデマンドバス」とか、人と環境にやさしい「屋根つき三輪自転車タクシー」とか、高齢者がトレーニングマシンで無理なく運動できる「十坪=とつぼ=ジム」とか、東大と千葉大と柏市とが協力して実験しています。

河村 それはCO2の削減など、いろいろな実験が入っているものでしょうか。

小宮山 そうです。柏地区で三五%減らすという目的も決めて、市民も一緒になって実験をしています。最先端の知は大学だけにあるわけじゃない。企業からも来て、市民と一緒になって実験していく。こういうインターフェースをつくりながら、大学のアクティビティを上げていくというのが、東大の基本的なスタイルです。

「留学生三十万人計画」を推進

河村 今、東大や他の大学は、積極的に中国と連携を持っていますね。日本の位置取りというのは、ある意味で地理的に非常にいい所にあると思っています。ここに視点を置かないことはないと考えていますが、アジア戦略については、どうお考えですか。

小宮山 例えばエネルギーでいえば家庭でのエネルギー消費量はものすごく大きくなっていて、今後、中国なんかでもエアコンなどを、どんどん使う。そのときに日本で、高温多湿のモンスーン地帯にふさわしい家、エネルギー効率の高い、エコで住みやすい家のモデルができれば、アジアに入りやすいわけです。日本はスウェーデンハウスなんて言ってるからダメなんですよ。日本のエコハウスをつくれば、それが膨大な住宅産業になるわけだし、ゲノムもそうなんですね。今、中村祐輔先生(東京大学医科学研究所教授)などがやっている日本人のゲノムとカルテを対応させるという壮大な実験で分かってきたのは、やはりアジア人同士のゲノムのほうが近いということです。だから日本で開発したゲノムベースの医療はアジアに入りやすいわけです。日本が今まさに自分たちの困っている問題、家の問題とか医療の問題とかに答を出していけば、それがまずアジアに入りますから、膨大な市場になります。

河村 日本は、再生医療分野で先頭を切っていますね。

小宮山 再生医療もそうです。だから、アジアと仲良くする、特に中国、韓国と仲良くしていくには、一緒になって二十一世紀の新しい社会をつくるということで協力するほうが、はるかに建設的だろうと思います。

河村 日本のソフトパワーがそこで発揮されるわけですからね。

小宮山 そうです。

河村 福田総理が「留学生三十万人計画」をかなり大胆に打ち出されまして、われわれは今それに向かって、どうやったら、知の役割を果たしていけるのかを模索しています。ランキングを上げて、魅力ある大学にしなければ、とてもじゃないが、三十万人という大きな数字は達成できません。
十万人計画を立てたのは中曽根総理の時代です。その十万人がなかなか達成できなくて、最近やっと日本への留学生が増えて、今は十二万と言われています。その七割近くは中国からの留学生ですが、アジア周辺からはまだ少ない。ましてやヨーロッパ、アメリカからは少ない。もっと日本の大学が国内的にも国際的にも魅力ある大学になっていかなければならないと思います。それに併せて、大学院の充実も不可欠です。

小宮山 おっしゃる通りです。

留学生受け入れのためのインフラ充実を

「課題先進国」日本の競争力と大学の役割 河村 先般、ベトナムのニャン教育訓練大臣が来日され、お会いしました。大臣は、「ベトナムは『博士二万人育成計画』を策定し、二〇二〇年までに約千人のベトナム人大学院生を日本で育成したい。」とおっしゃられた。この留学生受け入れについては、文科省もやろうということになっているのですが、最近は博士課程の一五・七%が留学生だという話もあります。臨海副都心に国際研究交流大学村をつくりました。そういうことをしながら準備を整えておりますが、これからどうなんでしょう、日本も国益にかなう企業との連携を密にしながら高等教育機関の強化を計っていく必要があります。そのためには、まず日本の大学が、魅力的でなくてはなりません。東大も恐らく留学生や外国人研究者の受け入れを、しっかりやっておられると思いますが、現状と、これからの構想について教えて下さい。

小宮山 ベトナムの教育訓練大臣とは、私もお会いし、「東大も受け入れる」と言いました。また、インドも重要で、先々週、IIT(インド工科大学)の五キャンパスと学生交換の契約を結びにインドへ行ってきました。
明るい点を言いますと、これも日本ではあまり報道されませんが、「世界でどこの国が好きですか」ということに対する答は、一位がカナダと日本なんです。

河村 BBC(英国国営放送)でやっていますね。小宮山 三年ぐらい続けています。日本を嫌いだというのが、韓国と中国。韓国と中国を除くと、日本が完全に一番なんです。ベトナムでもそうだし、この間、インドで驚いたんですが……。

河村 インドにおける日本の好感度が高いと聞きました。

小宮山 すごいですよ。インドで、どの国を一番よく知ってますかと聞くとアメリカなんですね。二番目が日本なんです。宗主国のイギリスは三番目になっている。「どこの国が一番好きですか」というと圧倒的に日本です。ベトナム、インドネシア、タイで聞いても「日本が好き」と言う。日本は非常に好かれているというのがいい点です。
インドの人々が言うには、英語で受け入れる道を増やしているのはとてもいいことなんですが、インドに日本語学校をつくってほしいと、日本語を覚えて日本に行きたいという人はとても多いという。英語も大事ですが、むこうに日本語学校をつくって、そこで日本語を習った上で日本にくる。これなら、日本の大学はやりやすいわけです。問題はインフラですよ。まず宿舎です。日本人の学生もある程度、寮生活、共同生活を経験させたほうがいいと思っています。やはり寮は不可欠ですよね。

河村 不可欠です。

小宮山 それから、さっきの話とちょっと矛盾しますが、英語でいける病院、さらに言うと、大学院になると家族のいる人がきわめて当たり前なので、英語で預ってくれる保育園、学校、そういったインフラ。実は柏市でそれをやったんです。柏市に英語だけで受診できる病院ができるという話が進んでいます。学校は残念ながら、まず千葉市幕張にできたんですが、それがうまくいったら第二号を柏市につくるという話になっています。そういうインフラづくりをやらなければ、クオリティが保てません。要するにインフラをつくらずに、ただ数だけやろうとすると、登録だけして、そのままアルバイトへ行っちゃうような、 そういう学生ばっかり来ちゃいますよ。ちゃんとした対応をつくりつつ三十万人計画をやっていくというのが本当に必要だと思いますね。

河村 全国の国立大学が、いわゆる留学生会館を持たなきゃいかんということです。それに対しては国が支援しなければ、三十万人、なかなか来ませんよ。

小宮山 いま留学生対応で、いちばん進んでいるのは早稲田大学じゃないですか。国際センターだったか、立派なのができているんです。東大もそれを手本にし て、国際センターをつくるつもりです。

河村 おカネがかかりますね。

小宮山 世界の国で、高等教育のおカネを減らしているのは、私の知っている限りでは日本だけですよ。GDP増がマイナスの国だってありますが、高等教育のお金は増やしています。日本だけ特殊。お金を出さなければ、国際競争に勝てなくなりますよ。

河村 その件については国大協(国立大学協会)、私大連(日本私立大学団体連合会)から強い要請をいただいています。二〇一一年までは今の行財政改革を行う。それから先ですね、財務当局がいろんな数字を出してきて、日本の教育を見直していると言っていますが、それは、むしろ初・中等教育のほうであって、高等教育はかなり劣化しているといいますか、それは否めないと思います。この状態を立て直すことが大きな課題だと思っております。

日本的な大学文化の発展に向けて

小宮山 明確に現れているのが大学附属病院ですね。日本はもともと、生命科学の基礎は強いんですが、医療につながるところが弱いんです。例えば、それこそランキングで言いますと、物理は東大が世界一です。生命科学は東大三位ぐらいだったと思います。材料科学だと東北大が一位です。ともかく世界のトップクラスにいるわけです。だけど、病院のクリニカル・スタディは東大が五十三位で、東大以外で百位以内に入っている日本の大学は皆無です。しかも、もともと弱い医療の研究が劣化しています。国立大学の附属病院は通常の治療ではなく、合併症、難病、困難な手術を行うためにあり、現在の医療費システムでは赤字になるので当り前です、現に大赤字で、黒字にするなんて難しい。それならば普通の病院と同じことをやれば黒字になるという人もいますが、そっちの方向へ行くと、研究できなくなるわけです。ここのところはぜひ、お考えいただかないと……。

河村 その点は、考えなければならない。われわれも党の中に「大学病院を考える議員の会」をつくりまして、この前、東大病院を見学させていただきました。

小宮山 東大病院、頑張っているでしょう?

河村 頑張ってらっしゃいます。特に小児科は日本中の特別な患者がきますから、対応が大変と思います。一方、地方の大学は、私学も含めて、その地方の経済と結び付いて、経済効果、投資効果、いろんな意味で、地域における存在価値があります。あんなに要るのか、もっとくっつけろという話もありますが、日本の場合は各都道府県に国立大学をつくっていって、一時、駅弁大学なんて言われたけれども、その大学が地域の経済と密接に結び付いて、その地域の発展の核になっている。これも大事なことだと思います。

小宮山 ええ。

河村 私の選挙区の山口県でも、地元の大学と企業が連携をしておりますし、これからは地域にきちっと根ざした大学の養成が大事と思う。

小宮山 東京における東京大学の位置づけと比べたら、山口における山口大学、各県における国立大学の役割、これは大きいですよ。それがなくなっちゃったりしたら、一体、地域はどうなるんですかね。

河村 最近、その経済効果を試算した数字を文科省も出すようになりました。非常に大事なことだと、われわれも思っています。

小宮山 財政に関して、いま先生がおっしゃったように、国からの支援はもちろんですが、もう一つは、日本も先進国になっていますから、税金だけでやるのではなくて、個人の思いで、寄附をしやすい制度が必要ではないでしょうか。多少相続税を上げるということがあっても、上がった部分は国に納めてもいいし、自分の思いでどこかに寄附してもいい。山口県の人が山口大学に寄附する。そういうことでもしないと、オーケストラとか博物館、美術館の運営が難しい。教育はすぐには経済に反映しないが、国家の底力として、国力に反映してくるという部分が、非常に大きいと思います。

河村 そうです。日本は先進国でこの分野がいちばん遅れている。特にアメリカとすぐ比較してしまうんですが、アメリカは寄附文化ですね。これを日本でどうやって育てるか。日本には向かないだろうと言う人もいるのですが、そんなことはないと思う。

「課題先進国」日本の競争力と大学の役割 小宮山 それは絶対にないですよ。

河村 税法上のインセンティブをもっと与えれば。
最近の試みとしては、ふるさと納税がありましたね。

小宮山 まさにあれですよ。

河村 税額控除の方向が取れればいいわけです。

小宮山 いや、おっしゃる通り。

河村 これはやはり思い切ってやらないと。アメリカの大統領選挙を見て羨ましいなと思います。大統領候補は寄附の多い人ほど強いという。すごい金が集まるんですね。

小宮山 あそこまで行っちゃうのも問題だなとは思いますけどね(笑)。

河村 もっと寄附文化を醸成すべきですね。いきなり政治家にくれというわけにいきませんが、まず大学や公的施設に寄附するところからしっかりやっておけば、そのうち、おこぼれでもくるかもしれません(笑)。

小宮山 いえいえ。どっちがおこぼれか分からないですけど(笑)。

河村 大事な視点だと思います。これは必ず議論になるところでしてね。それで大学が活性化していけば、また新しい創造ができますね。

小宮山 そうすると社会にお返しすることになりますからね。

河村 財務省があの堅い頭をもうちょっと変えてくれんと……。これはわれわれも大きな責任があると思います。

小宮山 自分たちが集めて、あとは配ってやる。これは途上国の発想ですよ。
先進国になったということは、みんなにいろんな思いがあるのだから、国民の思いを生かすような、公共のお金の調達の仕方というのを考えないといけないと思うんです。

河村 それから、アメリカと比べて日本はNPOの育ちが悪いのではないかと言われています。アメリカの公益法人などは組織的にも発達しています。

小宮山 「ワールドウォッチ」だの、大きなしっかりしたNPOがありますね。まあ大学はNPOかなと思ってますけど。

日本の未来は「大学」にかかっている

河村 そういう考え方でいいのではないでしょうか。国際大学ランキングで、一番びっくりしたのは、アメリカのハーバード大学の持っている基金、(基会)との格差です。日本の大学も法人化して自分たちで基金をどんどん貯められるようになってきましたから、恐らく東大あたりは本気でやれば集まると思います。いちばん多い慶應義塾大学でも二、三百億の単位なのに、アメリカの大学は一兆円の単位ですから、この格差は大変なものです。

小宮山 東大は百三十周年の節目まで四年ほどかかって、やっと百三十億円の基金を達成したところです。すぐには使わない余裕資金や、企業から信託基金の形で拠出していただいたお金をあわせ、運用原資五百億円を目指しているところですが、まだまだ比べものになりません。それでも僕らはギリギリ考えて、親の年収が四百万円以下の学生には学費免除と決めたわけです。それがMITは今年、(親の年収が)七万五千ドル未満(であれば授業料免除)ですよ。三〇%近くの学生が全額免除になるということです。ハーバードやイエール、スタンフォードでも、(親の年収が)六万ドル未満なら全額免除で、ハーバードは十八万ドル未満まで優遇措置を講じている。ハーバードの授業料が高いとか何とか言っているけど、これだけ授業料を免除しているんです。東大なら(親の年収が)四百万円以上だったら授業料を払わなくちゃいけないのですけれども、MITなら七百五十万円未満は払わなくていいし、ハーバードに至っては二千万円近くになっても優遇措置がある。だから、比較するときに、よく比較しないと……。なんか財務省に言ってるような気になってきたけど(笑)。

河村 ほんとですね、このへんもちょっと考えなければいけません。確かに、財務省当局に言わせれば、日本の初・中等教育は教育の機会均等の考え方ですから、みんな同じように教育を得られる。これが日本の売りで、外国は非常に羨ましがった。

小宮山 そうですね。

河村 これもかなり行き詰まっている。これだけの情報化時代で、教師の対応も難しくなってきた。

小宮山 ええ、難しい。

河村 社会が変化して、今までのようなわけにいかなくなっている。われわれとしては、義務教育段階においても教育費をもっと出すべきだと言って頑張っております。一方では、大学を出ながらニート、フリーターという新しい問題も出ています。一般的に言われるのは、大学に入るまでの競争は激しくやって、入学さえすれば勉強しなくても卒業できるんです。日本は、そういう体質があります。入口管理、出口管理の話ですが、出口管理をもっとしっかりやれという声が強いですね。

小宮山 アメリカは小人数教育だけれども日本はマスプロでというあたりも、実は現実をあまりご存じない方がおっしゃっているんですよ。今の日本の大学は相当なところまできていて、小人数教育も相当入っております。
確かに一部の、アメリカのリベラルアーツカレッジみたいに、いろんなことをやっているところはありますけれども、一般的に言えばこれまでの日本の大学教育の中身を、極論すると、そんなに期待してなかったわけですから。運動部活動でもやっていてくれれば、それでいい、教育は企業でやってくれる。途上国だったらそれでいいわけですよね。
だけど、自分たちの課題を自分たちのアイデアで解決するというときに、もう少し創造性のある人材が求められてくるわけです。いま大学は、相当この面に力を入れているんです。ここらへんもぜひご理解いただきたいと思います。
そういう意味で、われわれも国立大学協会で「三つの柱」の一つである個性を、重要な柱の一つとして、もっと社会に見えるように表現していくことで、「可視化」、それを“見える化”といってもいいかもしれませんが。大学の教育向上に努めているわけです。

河村 可視化というのは、裁判所とか警察の話ばかりかと思ったら、大学にも必要ですね。

小宮山 そうだと思います。

河村 もっとオープンにして、そのことによって大学が自信を持ってやれるようになればいいわけです。
情報公開するとかね。

小宮山 恐らく、いい試みは他へも伝播していくきっかけにもなると思います。そういう意味で可視化というのは非常に重要です。

社会総がかりで教育を

河村 ひと昔前、産学共同が叫ばれました。今は企業との連携が非常に密になり、寄附講座も相当、企業側から来ているのではないでしょうか。ハーバード大学や海外にずいぶん出ているのではないか。特に薬学分野などは寄附講座が多いと言われています。

小宮山 東大は今、おかげさまで相当寄附講座をいただいております。百社ぐらいですか。全体の講座が千ちょっとですから、一割ぐらいで、相当の部分が寄附で支えられています。企業も基礎研究的な部分は自分の会社で支えられなくなっており、大学で基礎研究をやってもらうほうが、全体にとっていいということになってきています。すぐに成果を求めるという形ではなく、大学をサポートするという考えが、かなり根づき始めています。昔の産学共同の感覚とはずいぶん違ってきたと思います。

河村 今、高等学校あたりでもインターンシップ制度を実際に経験させている高校も増え、自分のこれからの展望、方向を決めるという教育も盛んになっています。私も、もう四十年ほど前ですが、ゼミにインターンシップ制度がありまして、銀座四丁目の今は「和光」になっているビルの中に、昔の服部時計店の組織があり、そこで一週間ほど時計についての体験学習をした覚えがあります。

小宮山 私は大阪の住友電工に行ったかな。

河村 あの頃からあったのですね。

小宮山 一週間ぐらいのそういう体験もいいですし、ドクターを企業に一年派遣して、実験(経験)をさせてもらうとか。今、僕らはIBMとも始めています。IBMが国際的な展望も含めてアメリカで受け入れるという。要するに若い人に経験を積ませるということですね。文明が進んだ分、大人もそうかもしれないけど、特に若い人の成熟が遅くなっていますよね。それは経験が少ないからでしょう。やはり若いうちになるべくいろんな経験を積ませてやるというのは、僕らの務めだと思います。

河村 情報化時代、子供たちもいろんな情報を持っている。それに先生が対応できないのではないか、もっと先生に社会体験させろという声が強くなってきています。

小宮山 おっしゃる通り。

河村 フィンランドあたりは義務教育の先生を全部、大学院卒にしている。その中でいろんな経験を積ませていると思います。もっと社会人を入れるとか、企業でいろんな体験をした人たちを教育現場に入れるとか、そういうことが必要じゃないかな。

小宮山 先生がおっしゃったように、いまの教師は、子供がいろいろ言うことになかなか対応できないから、先生たちの研修に、社会人を入れるとか……。これがまさに大学発教育支援コンソーシアムの実験項目なんです。お茶の水女子大の郷先生(通子・学長)がおっしゃっているのは、大学院に行ってから、やっぱり先生になろうかなという子はたくさんいるというんですね。ところが、大学院には、例えば教育実習のシステムが整っていない。これは大学の責任もあるのだろうと思いますが、ごく単純なことで、四年生で教育実習に行かないと、大学院からは行きにくいという構図があるんです。そういうことをどうやったらうまくいくか実験してみようと。東大には沢山いるんです。ドクターを取ったんだけど、高校の先生になろうか。ところが東大の場合、教職免許、持っていない人がほとんどなんですよ。そういう人たちに、どうやって短期で教職免許を取らせるか、そういった実験とか。社会人もそうですよね。教職免許を持っていないと入れない。社会の経験があれば。多様な道を用意する。そのための実験みたいなことを、大学発教育支援コンソーシアムでやってみたいと思っています。

河村 教育再生会議で小宮山先生が、教育は社会総がかりでやらなければいけないとおっしゃった。これは非常にインパクトのある言葉だと思います。このことを大学が受け止めてきちっとやっていただく。そのためには寄附文化もそうでしょうが、奨学金制度を充実させることが大切です。
まだまだ日本の教育環境整備は不十分な点があります。これは政治の責任も非常に大きいと思っています。昔から教育は百年の大計と言われていますが、最高学府と言われる大学は、きちっとそのことを受け止めていただきたい。
われわれも、大学ランキングを上げるためには、どうすればいいのか、思い切った「提言」を取りまとめ、その実施に向け、全力を尽くしてまいります。その先頭に東京大学がありますから、大いに頑張っていただきたいと思います。

小宮山 日本人は問題点のみを意識してしまうことが多いわけですけれども、今までの教育を見れば、日本はとてもうまくやってきたと思います。今でも海外の人と話すと、何で日本が心配するのかと言われる。そう言われるような状況を少なくともつくってきた。ただ、今日、いろんな問題も生じていることは事実ですが、自信を持って日本の教育向上のために取り組んでいきたいと思っています。

河村 本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。


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